主な研究プロジェクト
UKK Walk Test 日本版の作成に関する研究
研究の概要
超高齢社会を迎えたわが国では、元気で活発な高齢者を増やす‘健康寿命の延伸’が喫緊の課題とされています。心血管疾患などの生活習慣病予防の観点からは、中高年者の身体活動を増進し、心肺持久力の向上を図ることが重要です。
一般的に、心肺持久力の指標である最大酸素摂取量(VO2max)の測定には12分間走や20mシャトルランなどランニングが用いられます。しかし、中高年者にとって、ランニングを用いた方法はリスク管理や動機づけの面から実施できないことや受け入れられないことが多く、これらの方法が実際の現場で利用される機会はありません。
UKK Walk Testは、1990年代にフィンランドのUKKインスティチュートで開発された2kmをイーブンペースでウォーキングすることによりVO2maxを推定する持久力テストです。
日本では、その存在はほとんど知られていませんが、近年、ノルディックウォーカーの間で行われるようになってきています。しかし、UKK Walk TestのVO2max推定が日本人に適用できるかどうかは十分に検証されておらず、VO2maxの過大評価の可能性も指摘されています。
そこで、本研究では、日本人を対象にUKK Walk Testの妥当性を検証するとともに、日本人によりフィットしたVO2maxの推定式を提案することを目的とします。
研究方法
この研究では、循環器疾患や重篤な整形外科的疾患等のない20~74歳の健康な男女180名を対象とします。
測定項目は以下の通りです。
- ① 呼気ガス分析法による最大酸素摂取量の実測
- ② インピーダンス(BIA)法による体組成測定
- ③ UKK Walk Testによる最大酸素摂取量の推定
これらの測定は、大阪体育大学熊取キャンパス(大阪府泉南郡熊取町朝代台1-1)で実施します。
①では、実験室内のトレッドミル上で疲労困憊に至るまで歩行した時の呼気ガスを採取し、最大酸素摂取量を実測します。
このテストでは、被験者は時速5.0km・傾斜5.0%で6分間歩行した後、3分毎に傾斜が2.5%増加、9分毎に速度が0.5km/h増加するプロトコールに従い歩行します。
テストは、心拍数が年齢予測心拍数×85%以上、酸素摂取量のプラトー現象、R(ガス交換比)が1.2以上、所定の速度で歩行不可の内、2条件以上が認められた場合に終了します。
③では、テスト中心拍センサーを装着し、心拍数が80~85%範囲内になるようペース調整しながら2kmを歩行します。
テスト後、①で取得したVO2maxの実測値を従属変数とし、②のBMI、③で計測したゴール時間及びゴール時心拍数を独立変数とする重回帰分析により日本人にフィットしたVO2maxの推定式を構築します。
また、一般市民でも心肺持久力のレベルが一目でわかるようVO2maxを標準化し、5歳区分ごとに持久力偏差値(フィットネスインデックス)として提示します。
研究の進捗状況
学生11名を被験者とする予備実験では、UKK Walk TestによるVO2maxの推定値は、呼気ガス分析によるVO2maxの実測値よりも平均4.2ml/kg/min高くなるという結果でした。
また、被験者11名中10名で実測値よりも推定値が高いという結果でした。
このように、フィンランド人を研究対象に開発された現行のUKK Walk Testでは、日本人大学生の最大心肺持久力を過大評価する可能性があり、日本人によりフィットした推定式の開発が必要と考えられました。
2020年2月より、関西ノルディックウォーキング協会等の協力により、UKK Walk Test 研究を進めてまいりましたが、新型コロナウィルス感染拡大により研究を中断せざるを得ませんでした。
2021年6月に研究を再開しましたが、被験者が集まらない状況が続き、研究は思うように進展していません。
しかし、2022年9月に泉大津市補助金(リビングラボ推進事業)に本研究が採択され、同市の広報支援を受けることができるようになったことから状況はやや改善されました。
結果、研究対象者数は80名に達しましたが(2023年2月時点)、まだ40~50歳代の被験者が予定数よりも大幅に少ない状況です。
このため、当面の課題として,様々なネットワークを駆使して被験者数を増やし、解析のためのデータベースを構築することに注力していきたいと考えています。
期待される研究成果
従来のVO2maxを推定するフィールドテストの多くは全力でランニングを行う必要があり、テストを適用できる年代は限られていました。UKK Walk Testでは、テスト中の心拍数を80~85%範囲内にコントロールするため、中高年者でも安全に(心理的な負担も少なく)VO2maxの測定ができます。
また、UKK Walk Testには、テストの結果に基づいて運動の目的別にウォーキング中の目標心拍ゾーンを提示する機能があるため、健康づくりの運動支援ツールとしても活用することができます。
このように、UKK Walk Test日本版の開発によって、中高年者に対して心拍数をもとにした効果的で効率的な生活習慣病予防のウォーキングプログラムを提供することができるようになります。
さらに、UKK Walk Testは糖尿病や脂質代謝異常など有疾患者への臨床応用も期待できる点で社会に及ぼす影響は大きいと考えられます。
UKK Walk Testの結果報告サンプル
UKK Walk Test及び最大酸素摂取量測定の結果報告、最大酸素摂取量の評価値の詳細について知りたい方はこちらを参照して下さい。
「UKK Walk Test 日本版の作成に関する研究」の被験者を募集しています
「UKK Walk Test 日本版の作成に関する研究」プロジェクトでは、循環器疾患や重篤な整形外科的疾患等のない20~74歳の健康な男女の皆さまを募集しております。
このプロジェクトでは、
①UKK Walk Test と ②最大酸素摂取量テスト を受けていただきます。
①UKK Walk Test:胸部に心拍センサーを装着し、屋外で2kmをできる限り速く歩行した時のタイムと心拍数から最大酸素摂取量を推定し、持久力スコアを算出します。
②最大酸素摂取量テスト:屋内の傾斜のついたトレッドミル上を、ガスマスクを装着して歩行し、最大酸素摂取量を実測します。
どちらも、テスト終了後すぐに結果をフィードバックします。また、測定データをもとに生活習慣病の予防や持久力の向上に有効なウォーキングの方法を提案します。
※令和6年3月31日まで、UKK Walk Testは泉大津市シーパスパークで、最大酸素摂取量テストは熊取町の大阪体育大学総合実験室で実施しています。
ご参加いただける方は、以下の申し込みフォームより研究の趣旨・募集の詳細をご確認の上必要事項を入力し、送信ください。折り返しご連絡させていただきます。
※UKK Walk Testと最大酸素摂取量テストで申し込みフォームが違いますのでご注意下さい。