研究プロジェクト/共同研究
研究プロジェクト
― 共同研究 ―
泉大津市との共同研究
動的バランス課題を用いたロコモ判別式の開発研究
「動的バランス課題を用いたロコモ判別式の開発研究」は、将来の社会実装を見据えた自治体との共同研究である。
研究の加速化と持続可能性を掲げる大阪大学の“OUエコシステム”の産学官連携モデルの第1号として阪大の共創機構のコーディネートにより実現した。
本研究は、要介護状態の前段階にあるとされる「ロコモティブシンドローム」を簡易かつ安全にスクリーニングするための動的バランステストの判別精度の向上および判別的中率の検証を目的に行うものである。
共同研究は2021年11月24日、泉大津市立図書館での市民対象の健康セミナーとバランス測定会の開催を皮切りにスタートした。
共同研究の成立に至る背景
大阪大学では、研究成果を社会に実装していく中で、新たな問題点や研究課題を研究現場に戻し、そこで得られた研究成果を再び社会に実装していく“OUエコシステム”の構築に取り組んでいる。
2020年4月には、OUエコシステムの構築を加速するため共創機構内に社学共創部門が組織され、学内の研究者と自治体をマッチングするコーディネート活動がスタートした。
泉大津市では、身体及び認知機能や能力、技量、才能など広く健康を「アビリティ」と捉え、市民一人ひとりがアビリティを伸ばす「アビリティタウン」の実現を目指している。
すでに「あしゆびプロジェクト」などのアビリティ関連事業が展開されているが、さらに、健康増進のための選択肢を増やし、市民の積極的な参加を促すことを目的に実証の場の創出、並びに大学・研究機関との連携を図り、様々な社会課題の解決モデルを生み出す仕組みとしての「リビングラボ」の構築を進めている。
このような背景の下、2021年1月頃より泉大津市のアビリティタウン構想を実現するためのソリューションとして「ロコモティブシンドロームとサルコペニア判別のための新規な動的バランス指標の開発(研究代表者:藤田和樹)」が俄に注目されるようになり、同年8月頃より共創機構による研究者と泉大津市のマッチングが実施された。
種々の調整の結果、泉大津市と大阪大学全学教育推進機構の間で共同研究契約(研究課題:動的バランス課題を用いたロコモ判別式の開発研究)が締結され、2021年11月24日、泉大津市立図書館での市民対象の健康セミナーとバランス測定会※資料1参照 を皮切りに共同研究がスタートした。
2022年度以降の研究計画
① 開発中のロコモ判別式の精度向上
運動習慣や運動機能に偏りのない高齢者100名を対象に動的バランスとロコモ度テストの横断的調査を実施する。得られたデータは箕面市等で取得した過去データと統合し再解析することによりロコモ判別式の精度向上を図る。
② 動的バランス能力の再現性評価・ロコモ該当の判別的中率の検証
①の横断的調査の参加者を対象に縦断的調査を実施し(1年間の間隔で動的バランス測定を2回実施)、動的バランステストの再現性を評価する。また、①とは別の高齢者集団を対象にロコモ判別式の精度(判別的中率)検証を行う。
③ ロコモ判別アプリを用いたロコモ測定キャンペーンによるビッグデータの集積
泉大津市の「アビリティタウン構想」を実現するためのプロジェクトとして、市民に開発したロコモ判別アプリを無料配布し、バランス測定を促すキャンペーンを実施することにより身体関連アビリティのビッグデータの集積を図る。
本研究が目指すところ
スマホアプリで簡易かつ高精度にロコモが判別できるようになることである。
スマホのアプリを用いてロコモのデータをクラウドで一元管理できるようになれば、利用者は履歴に容易にアクセスできる。また、行政側は市民のロコモ度を健診データなどとリンクすることが可能となり、ロコモ度に応じた健康増進サービスの効率的・効果的な運用が可能となる。
また研究者・企業にとっても、ロコモで紐づけられた健康関連のビッグデータは様々な研究・開発に活用できるため大きなメリットになる。
本研究により、自治体と大学の共同研究は市民の健康とくに体力情報をDX化し共有するという次世代のステージに移行することとなる。
研究結果
令和5年度泉大津市身体バランス測定会
【 目的 】
体力テストの実用化にはテストの再現性が必要条件になるが、開発中の動的バランステスト(交互片脚立ちテスト)に関してはテストの再現性が検証されていなかった。そこで、本事業では動的バランス指標として交互片脚立ちテストの骨盤前後傾の角速度自己相関係数(acorr_aac_y)の再現性を検証することを目的とした。
また、交互片脚立ちテストのacorr_aac_yを用いて作成したロコモ判別式による判別的中率の再現性についても検討することとした。
【 対象者 】
令和4年度と令和5年度の身体バランス測定会に参加した高齢者36名(男性8名、女性28名、年齢71.3±5.9歳)とした。
【 結果と考察 】
両年度間で交互片脚立ちテストのacorr_aac_y平均値に差は認められなかった。また、両者の間には強い正の相関関係が認められたことからacorr_aac_yの再現性が確認された。しかし、この指標を用いたロコモ判別式の判別的中率は令和4年度に比べて令和5年度は低下した。
本式によるロコモの判別的中率には動的バランス能力(acorr_aac_y)が影響するが、令和4年度の身体バランス測定会後の結果説明会で筋トレのロコモへの有効性を説明したことにより、令和5年度には動的バランス能力とは無関係に下肢筋力の増強によりロコモ度が改善された対象者が6名(16.7%)存在したことがロコモの判別的中率に不一致が生じた要因と考えられた。
【 今後の展望 】
今後も身体バランス測定会の継続参加者では、動的バランス能力に変化がなくても下肢筋力の増強によりロコモ度の改善が生じる可能性があるため、ロコモ判別的中率の再現性を検証することは難しいと考えられる。現時点では、本式によるロコモの判別性能が社会実装レベルには至っていないことが課題である。
このため、今後は新規参加者を対象に交互片脚立ちテストのサンプル数を増やすことによりロコモの判別性能の向上を図る。特に、偽陰性率の改善を図るため交互片脚立ちテストの難易度を下げる修正を行い、本法の判別性能を社会実装レベルまで改善することに重点をおく。
体力測定の結果報告サンプル
泉大津市における身体バランス測定会の結果報告(サルコペニア診断、身体組成測定、ロコモ度テスト、バランス測定)の詳細について知りたい方はこちらを参照して下さい。
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