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研究プロジェクト/共同研究

研究プロジェクト
― 共同研究 ―

箕面市との共同研究

研究の目的

2019年度(令和元年度)より、箕面市健康福祉部と大阪大学全学教育推進機構は共同研究契約を締結し、高齢者の体力測定事業を実施している。
本事業の目的は、介護予防、健康寿命延伸の観点から高齢者のサルコペニア、ロコモティブシンドロームの該当状況と運動機能を調査し、これらの予防に向けて運動・身体活動の実施を促すとともに、パワープレート事業など高齢者向け運動サービスの効果を科学的な方法により評価することである。

研究の方法

体力測定事業の対象者は60歳以上の市民であり、除外基準は以下の通りである。

 A:循環器疾患(脳梗塞・脳出血・心筋梗塞など)を有していること。
 B:神経疾患(パーキンソン病、多発性硬化症など)を有していること。
 C:運動に支障を来すほどの重篤な整形外科疾患を有していること。
 D:認知症等、自身で研究参加の可否が判断不能であること。

 本事業では、箕面市の市報、測定会場でのチラシ掲示により参加者を募集している。
 募集の際には問診票の提出によりA~Dの除外基準の該当有無を確認する。
 体力測定は、稲ふれあいセンターで隔月に1回の頻度で実施している。
 1回当たりの定員は20名であり、所要時間は1時間ほどである。
 また、体力測定の約1ヶ月後に結果説明会を開催し、測定結果を説明するとともにサルコペニアやロコモ予防のための運動の実技を紹介している。

本事業における主な体力測定の内容

① サルコペニア診断

サルコペニア診断は、アジアサルコペニアワーキンググループ(Asian Working Group for Sarcopenia: AWGS)の診断基準に基づいて行った。

⑴ 5m歩行テスト

5mの歩行路を通常歩行した時の所要時間を歩行速度(m/秒)に換算し、歩行速度が0.8m/秒未満をサルコペニアのリスクありと判定した。

⑵ 握力

男性26㎏未満、女性18㎏未満をサルコペニアのリスクありと判定した。

⑶ 骨格筋指数(SMI:四肢骨格筋量[kg]/身長[m]2)

インピーダンス(BIA)法により推定した。SMIが男性7.0未満、女性5.7未満をサルコペニアのリスクありと判定した。

本事業では、歩行速度または握力のどちらかにリスクがあり、かつ、骨格筋指数にリスクがあった場合をサルコペニア該当と判定した。

② ロコモ度テスト

ロコモティブシンドロームの判定は、日本整形外科学会の臨床判断値に基づいて行った。

⑴ 立ち上がりテスト

対象者は、両腕を胸の前で組み、40~10cmの台から両脚または片脚で起立する。
40㎝台から片脚で起立できなかった場合をロコモ度1、20㎝台から両脚で起立できなかった場合をロコモ度2、30㎝台から両脚で起立できなかった場合をロコモ度3と判定した。

⑵ 2ステップテスト

できる限り歩幅を広げて2歩ステップした時の距離を身長で除した値(2ST値)。
2ST値が1.3未満の場合をロコモ度1、1.1未満の場合をロコモ度2、0.9未満の場合をロコモ度3と判定した。

⑶ ロコモ25

過去1ヶ月間の身体の痛みや活動のつらさに関する4項目、日常生活活動の困難度に関する16項目、社会生活機能に関する3項目、転倒や移動能力への不安に関する2項目からなる質問票に自己記入する主観的包括尺度である。
ロコモ25では、痛みや日常生活の困難度など25の質問に対して、0(なし)から4(重度)の5段階で評価し、合計点(0~100点)を算出する。
ロコモ25の合計点が大きいほど移動機能の低下が進行していることを表し、合計点が7点以上15点以下ではロコモ度1、16点以上23点以下ではロコモ度2、24点以上ではロコモ度3と判定される。

本事業では、立ち上がりテスト、2ステップテスト、ロコモ25のいずれかにリスクがあった場合、立ち上がりテストまたは2ステップテストのどちらかにリスクがあった場合の2通りの方法でロコモ該当の有無(ロコモ度)を判定した。

③ 静的バランステスト

本事業では、高齢者の静的バランス評価のスタンダードであるロンベルグテストと開眼片足立ちテストを行った。

⑴ ロンベルグテスト

床反力計を用いて、ロンベルグ肢位(閉脚立位にて開眼・閉眼)における足圧中心(COP)総軌跡長を計測した。対象者は裸足になり、床反力計上で60秒間ロンベルグ肢位をとった。
開眼・閉眼時のCOP総軌跡長を足長で除した後、ロンベルグ比(閉眼時COP総軌跡長/開眼時COP総軌跡長)を計算した。
東京都老人研究所の「中年からの老化予防総合的調査追跡研究」では、60歳代後半のロンベルグ比の平均±標準偏差は、男性:2.2±0.7、女性:2.1±0.7と報告されている。
本事業では、これらの平均値-1標準偏差相当値(男性:1.5,女性:1.4)以上をリスクありと判定した。

⑵ 開眼片足立ちテスト

片足立ちの所要時間を最大30秒まで計測した。
テストの方法は、スポーツ庁新体力テストに準拠した。本事業では、厚労省「運動器の機能向上マニュアル」に記載の特定高齢者データの40%タイル点に相当する10秒未満をリスクありと判定した。

④ 動的バランステスト

本事業では、高齢者の動的バランス評価のスタンダードとして、立位安定性限界とファンクショナルリーチ・テストを行った。

⑴ 立位安定性限界

床反力計を用いて、閉脚立位にて前後方向へ最大重心移動した時のCOPの移動幅を測定した。
被験者は両足を閉じ、腰ができるだけ曲がらないように前傾姿勢および後傾姿勢を行った。

⑵ ファンクショナルリーチ・テスト(FRT)

壁に貼った方眼紙の前で、肩幅に足を広げて立ち、肩の高さに挙上した片腕が下がらないようできる限り前方へ伸ばした時の距離を計測した。
内山ら(臨床評価指標入門、2003)の報告では、男女とも70歳代では25cm以下で転倒リスクが2倍になるため、本事業においても男女ともにFRTが25cm未満をリスクありと判定した。

研究結果

体力測定事業には、2019年度からの2年間で154名(男性:57名、女性97名)の高齢者が参加した。
本事業の参加者のほとんどは健康であり、運動機能も比較的すぐれている高齢者だった。

2019年度の体力測定結果

サルコペニア該当率は15/82名(18.3%)だったが、男性で10.3%、女性で22.6%と性差がみられた。ロコモ該当率は50/83名(60.4%)だったが、男性では50.0%、女性で66.0%とサルコペニア同様に性差がみられた。
また、移動機能の進行が進んでいると考えられるロコモ度2の割合は、男女ともに20%程度であり性差はみられなかった。

サルコペニア該当者は、非該当者に比べて、サルコペニア診断の検査項目(握力・自由歩行速度・骨格筋指数)は有意に低下していた。しかし、女性では、最大歩行速度・開眼片脚立ち・ファンクショナルリーチといった運動機能には差が認められなかった。これに対して、男性ではこれらの運動機能に顕著な差が認められた。
バランス機能に関しては、サルコペニア非該当・該当間でほとんど差が認められなかった。理由として、本体力測定で用いたバランス評価は、閉脚立位や閉脚立位での体重移動といった比較的簡単な課題を用いているため、元気高齢者ではこの程度の外乱刺激では負荷が足りなかった可能性が考えられた。

ロコモ度進行に伴い男女ともに運動機能は低下したが、とくに男性でこの傾向は顕著であった。しかし、バランス機能にはロコモ非該当・該当間で差は見られなかった。しかし、判定条件からロコモ25を除くことにより、ロコモ度の増加に伴ってバランス機能が低下する傾向が認められた。
ロコモ25による評価には心理的・社会的な影響が多分に含まれており、これらの要因を取り除くことによりロコモとバランス機能の本来の関連を評価できる可能性が示唆された。
今後,ロコモとバランス機能の関連について検証を進めていく上でロコモ度の評価方法の再考が必要と考えられた。

本事業では、2016年度に行ったパワープレート介入研究事業の効果検証も事業の目的としている。しかし、上記研究事業の対象者で2019年度の体力測定に参加した者は3名であり、この内、調査時点でパワープレートを継続している者は2名だったため、研究事業の効果は検証できなかった。しかし、継続していた2名に関してはパワープレートによる運動機能への効果が認められた。今後、パワープレート介入事業の対象者の参加率の向上が課題と考えられた。

2020年度の体力測定結果

サルコペニア該当率は9/71名(12.7%)だったが、男性で1名(3.7%)、女性で8名(18.6%)と性差がみられた。
AWGSの診断アルゴリズムでは、自由歩行速度または握力が基準値以下であり、かつ骨格筋量が基準値以下でサルコペニア該当になる。

本体力測定では、男女ともに自由歩行速度で基準値以下の者はいなかったが、握力低下者は男性で4名(14.8%)、女性で12名(28.6%)であり、女性では男性の2倍だった。骨格筋量低下者の割合は、男性で10名(37.0%)、女性で20名(45.4%)であり、大きな差はみられなかったため、サルコペニア該当の性差は握力低下によるといえるだろう。

女性では、サルコペニア非該当群に比べて該当群では、握力や骨格筋量に加えてファンクショナルリーチに有意な低下が認められた。
ファンクショナルリーチは動的バランス能力のテストとされているが、ハムストリングや脊柱起立筋群といった抗重力筋の機能が成績に影響を与える。
女性のサルコペニア対策では握力や筋肉量の改善だけでなく姿勢維持に関連する筋群にも配慮したトレーニングが必要と考えられた。

ロコモ該当率は44/71名(62.0%)であり、男性で63.0%、女性で61.4%とほぼ同じ割合だった。しかし、移動機能の進行が進んでいると考えられるロコモ度2と3の割合は、男性では3/27名(11.1%)、女性では9/44名(20.5%)であり、女性で高くなる傾向がみられた。
この理由として、立ち上がりテストにおけるロコモ度2&3の割合が、男性では1名(3.7%)だったのに対して、女性では5名(11.4%)と多かったことがあげられる。
これらの結果から、女性におけるロコモ対策では下肢の筋力強化が課題と考えられた。

2016年度のパワープレート介入研究事業の効果に関しては、2019年度と同様、研究事業の対象者で2020年度の体力測定に参加した者が2名と少なかったため、効果の検証を行うことはできなかった。しかし、継続していた2名に関してはパワープレートによる運動機能への効果は認められた。

なお、2020年度の体力測定事業には、介入研究終了後のパワープレート事業への参加者が18名参加したことにより、2021年度はパワープレート事業の効果を検証できる可能性が高くなった。

2021年度の体力測定結果

2021年度は60歳以上の市民を対象に体力測定を4回行い47名が参加した。

体力測定では、サルコペニア診断・ロコモ度テストによりこれらに該当しているかどうかの判定を行った。また、床反力計を用いてロンベルグテスト(静的バランステスト)や立位安定性限界(動的バランステスト)の測定を行った。さらに、交互片脚立ち課題における加速度データからロコモ・サルコペニアの判別を可能とするアルゴリズム開発のためのデータ収集を行った。

本体力測定の対象者は、概ね健康であり、運動機能も比較的すぐれている高齢者だった。
しかし、サルコペニア該当率は、昨年度の12.7%から今年度は21.3%に増加した。
この理由として、男性のサルコペニア該当者(該当率)が、昨年度の1名(3.7%)から5名(22.7%)に増加したことがあげられる。

AWGSの診断アルゴリズムでは、自由歩行速度または握力が基準値以下であり、かつ骨格筋量が基準値以下でサルコペニア該当になる。

本体力測定では、男女ともに自由歩行速度が基準値以下の者はいなかった。
しかし、握力低下者は男性では、昨年度の4名(14.8%)から今年度は7名(31.8%)へ増加した。一方、女性では昨年度の12名(28.6%)に対して今年度は6名(24.0%)と変わらなかった。骨格筋量低下者の割合は、男性で10名(45.4%)、女性で14名(56.0%)であり、昨年度よりもやや増加した程度であった。
これらのことから、サルコペニア該当率の増加は男性の握力低下によるといえるだろう。

ロコモ該当率は、昨年度の62.0%から今年度70.2%に増加した。この理由として、男性の該当率が63.0%から77.3%に増加したことがあげられる。
一方、女性の該当率は64.0%であり、昨年度と同レベルであった。

移動機能の進行が進んでいると考えられるロコモ度2と3の割合は、男性では4/22名(18.2%)、女性では9/25名(36.0%)であり、女性で高くなる傾向がみられた。しかし、ロコモ度3の該当者(男性1名と女性2名)の判定理由はロコモ25によるものであり、実際の運動機能の低下によるものではなかった。

これに対して、ロコモ度1該当の判定理由で最も多かったものは、男女ともに立ち上がりテストであった。特に、男性では、13/22名(59.1%)が立ち上がりテストでロコモ度1に該当した。これらのことから、男性のサルコペニア・ロコモ対策では全身の筋力強化が最重要課題と考えられた。

一方、女性では、ロコモ25によるロコモ度1の該当率は24.0%であり、男性の9.1%と比べて多かった。これらのことから、女性では、骨格筋量の増加及び下肢筋力の強化に加えて、疼痛管理や運動機能に対する自信回復も必要と考えられた。

本事業では、現在箕面市が進めているパワープレート事業の効果の検証も目的としている。しかし、昨年度と同様、上記事業の継続者で体力測定に参加した者は2名と少なかったため、効果の検証を十分に行うことはできなかった。しかし、継続していた2名に関してはパワープレートによる運動機能への効果は認められた。

今年度の体力測定事業には、現在箕面市が進めているパワープレート事業の参加者が9名参加した。来年度もこの9名に体力測定事業の参加を促すことにより同事業の効果を検証することが必要である。

2021年度はマスク着用、手指や測定機器の消毒など感染対策を万全に行った結果、本体力測定事業に起因するコロナ感染者は皆無であった。しかし、本体力測定のスタッフが所属する研究室でコロナ陽性者が出てしまったため2022年1月の測定を開催できなかった。
来年度も新型コロナウィルスの感染状況によっては測定スタッフの人員減や参加者定員の削減などの措置が必要になるかもしれない。また、コロナ陽性者や濃厚接触者が出てしまった場合は体力測定事業の中止もやむを得ないだろう。
このような困難な状況ではあるが、高齢者では活動自粛に起因する健康被害の影響はより深刻であり、このような身体を動かすことがままならない時期であるからこそ市民の身体活動への動機付けを促す方策として本事業の果たす役割は大きいと考えられる。

2022年度の体力測定結果

2022年度は60歳以上の市民を対象に体力測定を6回行い、63名が参加した。

体力測定では、サルコペニア診断、ロコモ度テストのほか床反力計を用いたロンベルグテスト(静的バランステスト)、立位安定性限界(動的バランステスト)の測定を行った。さらに、交互片脚立ち課題における加速度データからロコモ・サルコペニアの判別を可能とするアルゴリズム開発のためのデータ収集を行った。

本事業の対象者は概ね健康であり、運動機能も比較的すぐれている高齢者だった。しかしサルコペニア該当率は、昨年度の21.3%から今年度は28.6%に増加した。
この理由として、男性のサルコペニア該当者(該当率)が、昨年度の5名(22.7%)から8名(28.6%)に増加したことがあげられる。AWGSの診断アルゴリズムでは、自由歩行速度または握力が基準値以下であり、かつ骨格筋量が基準値以下でサルコペニア該当になる。

本体力測定では、女性では自由歩行速度が基準値以下の者はいなかったが、男性では2名(7.1%)が基準値以下だった。
握力低下者は、男性では昨年度の7名(31.8%)から10名(35.7%)へ増加した。一方、女性では昨年度の6名(24.0%)から15名(42.9%)に大幅に増加した。
骨格筋量低下者の割合は、男性で10名(45.4%)から16名(57.1%)へ増加したが、女性では14名(56.0%)から18名(51.4%)へやや減少した。
これらのことから、サルコペニア該当率の増加の理由は男性の骨格筋量低下と女性の握力低下によるといえるだろう。

ロコモ該当率は、昨年度の70.2%から73.0%に増加した。この理由として、男性の該当率が77.3%から78.6%に、女性の該当率が64.0%から68.6%にそれぞれ増加したことがあげられる。
移動機能の進行が進んでいると考えられるロコモ度2と3の該当率は、男性では昨年度の18.2%から28.6%に増加したが、女性では36.0%から22.9%に減少し、男性で高くなる傾向がみられた。また、ロコモ度3の該当者は男性1名のみであり、わずかであった。一方、ロコモ度1の該当率は男性で50.0%、女性で45.7%であり、最も高かった。

ロコモ度1の判定理由で最も多かった項目は、男性では立ち上がりテスト(71.4%)だったが、女性では立ち上がりテストと2ステップテストが同率だった(37.1%)。また、女性ではロコモ25によるロコモ度1の該当率は昨年度の24.0%から34.3%に増加しており、男性と比べて多かった。これらのことから、男性のサルコペニア・ロコモ対策では全身の筋力強化が最重要課題と考えられた。
これに対して、女性では全身の筋力強化に加えて疼痛管理や運動機能に対する不安軽減を図ることが必要と考えられた。

本事業では、現在箕面市が進めているパワープレート事業の効果の検証も目的としている。今年度の体力測定事業にはパワープレート事業の参加者が13名参加した。このため,事業の効果について十分とは言えないが検証することができた。結果、パワープレートを継続していた7名に関しては運動機能の維持・改善効果が認められた。

来年度以降も今回の13名を含むパワープレート事業の参加者に体力測定事業への参加を促すことによりパワープレート事業の効果を検証することが必要と考えられた。

本事業で用いたロンベルグ比や立位安定性限界といったバランス指標は、ロコモ・サルコペニアはもとより膝痛や転倒のある者の機能評価や予測に有用である可能性が示唆された。

現在箕面市が進めている全身振動(パワープレート)トレーニングには血液循環の促進や筋緊張の抑制効果が報告されており、これらは疼痛軽減に働くと考えられる。また、パワープレートには筋紡錘を介した反射ループの活性化によるバランス機能の向上も期待できる。これらのことから、次年度は本研究の動的バランス指標等を用いてパワープレートによる即時介入効果を検証する事業を提案したい。

体力測定の結果報告サンプル

箕面市における高齢者体力測定事業(シニア対象からだの元気度測定事業)の結果報告(サルコペニア診断、身体組成測定、ロコモ度テスト、バランス測定)の詳細について知りたい方はこちらを参照して下さい。

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